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虎にならなかった山月記

2014年冬、私は被災地の仙台市荒浜にいました。建物の基礎が剥き出しになり、かつての人々の生活の跡が見渡す限りに続くのに、私しかいない世界。前日まで東京のネオン煌めく世界にいた私は、あまりの落差に「このままでは日本が割れてしまう」と思い、起業を決意しました。「世界を繋がなくては」と。

そう思うようになったのは、実はずっと昔からのように思います。私の祖父母の家は、秋田県湯沢市で600年続く農家でした。関東で育った私は、長期の休みごとに帰省していましたが、幼い私の目にも、湯沢の街は明白に寂れていきました。同時に、祖父母の家も寂れてゆき、1人で住んでいた祖母が88歳で亡くなった後は、空き家となりました。

東大大学院で国際紛争解決やグローバル化を学んでいた私は、国連などの世界の舞台に行きたいという夢を持つ一方で、ずっと湯沢の祖父母の家が気になっていました。市場原理やアカデミックが前提とする「合理的人間観」では、どう考えてもこの祖父母の家は、「無価値」になってしまう。それは正しいのだろうか。

私は、私が私らしいと思う誰にも評価されない道と、世界の最前線に出て国連や外交などの場で国際的に活躍する道との間で、人生を逡巡していました。

それはまさに「To be, or not to be」でした。

一方は、自分らしいがおそらく金は稼げない道。誰にも評価されない道。最悪、餓死するかもしれない。もう一方は、金もステイタスも得られるが、自分が最も大切にしているものを手放す道。どう生きたら良いのか。

その悩みを抱えたまま、私はズルズルと30歳を迎え、何者にもなれない自分を持て余しながら、ただ時が過ぎていくことに、身を焦がすほどの焦燥を感じて苦しんでいました。この二つの道は、交わることがないのではないかと。

しかし、記者としてローカルの現場に身を投じた私は、それは「大いなるとらわれであり、勘違いであった」と気づくのです。

地面を歩き一人ひとりと向き合い、取材を始めた東北の地は、私に豊かさを教えてくれました。ローカルこそがグローバルの最前線でした。現場を歩き、地元の人々の話を聞いて、「自分はなんて何も知らなかったんだろう」と涙を流すことも多くありました。人間の生き方ってなんて自由で多様で可能性に満ちているんだろう。自分は東京で情報に満ち溢れていて、なにか知った気になっていたけど、何も知らなかった。自分はなんてちっぽけだったんだ。そう感じました。

20代の私は、傲慢で下らない臆病な自尊心にとらわれ、ただ時を無駄にしていただけだと気づきました。

だから私は、本当は20代の自分に伝えたいのです。あなたが悩んでいることは、とらわれであり気のせいであると。この世界はもっと自由で、楽しくて、美しいと。

でも、それはできないから、せめて、今を生きる人々に、そしてこの先を生きる人々に伝えたい。自分の心の揺らぎには価値がある、そして、この世界とあなたの人生は可能性に満ちている。そのために私は、THE EAST TIMESというムーブメントを、世界へそして歴史へと展開していきます。